【コラム】あなたの助けになる音楽の辞書で宝箱、教本・エチュード / 今村耀(ユーフォニアム奏者)



 

世の中にはたくさんの教本、エチュードがいろいろな出版社から出版されていますね。

でも「教本やエチュードって必要なの?それをやることでなにが変わるの?」という懐疑的な人もいれば、「本番の曲の楽譜が配られているのに個人練習でエチュードやってる人ってなんなの?意味あるの?」と先輩に怒られたり(または怒ったり)する人もいらっしゃると思います。

そういった疑問であったり不満であったり、というものは「教本・エチュードについてあまり知らない」という不安から来るものではないかと思います。

自分で使ってみるのが一番ですが、なかなかその一歩が出ないという方もおられるかもしれません。

そこで、プロの演奏家として多忙な中、個人レッスンから吹奏楽団のレッスンまで広く指導も行われており、指導などで教本やエチュードをよく使っていらっしゃるユーフォニアム奏者の今村耀さんに、教本やエチュードについてのコラムをお願いしました。

いろいろな不安、疑問、そういったものが解消されるかと思いますので、下記の今村さんのコラムから、少しでも理解を深めて頂ければ幸いです。

(Wind Band Press:梅本周平)

 

 


 

曲の中に存在する様々なフレーズを、適切に、そして自分の思う演奏にするためにも、技術性・音楽性共に磨いていくことの必要性は、誰もがひしひしと感じていることだと思います。

楽器の演奏に必要な技術や演奏法、音楽的要素などを知り、実践し身に着けていくことができるのが「教本・エチュード」と呼ばれる楽譜たちです。この楽譜たちはいったいどのようなものなのか?そして、どんな内容が自分を成長させてくれるのか、今一度確認し、新しい教本にチャレンジするきっかけとしていただければと思います。

 

1.教本&エチュードは曲の練習と何が違うのか?

曲を練習することがその場での対処であるのならば、教本やエチュードは事前準備に当たるかもしれません。タイムパフォーマンスを求めれば求めるほど、教本を適切に扱うことは重要です。自分自身の能力の底上げを行うことで、様々な曲に取り組んだ時にできることや、気づきなど、全ての初期値が変わるため、教本を開きエチュードに取り組むことは、ストレス無く音楽に取り組むのに最も有効な方法で、私自身も日々欠かさずに練習を行っています。

例えば、曲中のたった4小節を間違えずに音を並べるのが今日の最初の目標だとします。
「こんな難しいフレーズできないよ。どうしよう、とりあえずやってみよう……」その日の練習時間すべてを使ってしまうなんてこともあるかもしれません。
「これは臨時記号で書いてあるけど、シャープやフラットの付き方から●●調と同じだから、そのつもりでやれば、真っ黒の楽譜だけど、指は回りそうだな。弱起からでシンコペーションも目立つから、こんなかんじかな」教本で色々なものに取り組んでいればすぐに見分けがつくので5分でひとまず形になる可能性も増えてきます。

教本には、ソロだけではなく、オーケストラや吹奏楽、アンサンブルやバンドの中で演奏するうえでも知っておくと良いことが盛りだくさんで、団体の活動時間中に、吹奏楽用練習本以外にも各楽器の教本に取り組んだり、何かを決定するときには、教本からエチュードを出題して演奏の聞き比べを行うなど、活用される場面も増えてきたように思います。

様々な課題に取り組むことで、多様な調性を学んだり、拍子の演奏方法やその中でのリズムの出し方、それぞれの楽器での特殊奏法や通常と異なる運指の使い方などを色々なアプローチで演奏できるので、自分の音楽的引き出しが増えるのも嬉しいところです。正しい使用方法でエチュードを進めていくことは、譜読みスピードの上昇や演奏効率の向上につながります。

やったことのあるエチュードを再び演奏することで、当時と今の演奏の癖の違いも確認できますし、修正すべき部分も明確になります。また、曲中と同様のリズムやスケールが含まれるものを複数さらうことで、何度も引っかかってしまうフレーズをすぐにスルーできるようにできるので、似た譜例が出てきた時に、即座に反応できるようになっていきます。教本を使った練習が、自分の成長をたくさん手助けしてくれるのはたしかでしょう。

 

2.どんな教本を使って、どのように練習すればいいの?

教本やエチュードに良い効果があるのはわかったけど、実際にどんな教本を使うのがベストなのか?という話も出てきます。

アーバン、アンデルセン、コプラッシュ、フェルリンク、ブルーメ、ボルドーニ、ロッシュ、ローズ、ワイセンボーンなど、主に管楽器の有名なエチュードですが、名前だけでも聞いたことがある方は多いと思います。技術的な面を磨くものや、フレージングを自然にできるよう練習できるものなど、さまざまな課題がたくさん書かれており、各楽器の鉄板ともいえる教本たちです。ただし、ほとんどのものに解説がなかったり、具体的な音の処理方法や好ましい指番号などが書いていないことも多く、やり方が間違っていないか、意図された内容を詰められているのかが分からず、ひとりで取り組むのが難しく感じることもあります。

課題がわからない。そんなときに思い出してほしいのは「普段、自分がどのように演奏しているか」です。それを思い出しながら練習してもらうと、違和感を感じたり、やりにくさを覚えることがあります。そこがチェックしなければいけない部分です。自分のみだとそういった不自然さを感じないものの、アンサンブルの中での微妙なズレ、録音を聞いたときに不思議に感じる部分を見つけることがあると思うのですが、そういった部分は、よりしっかりと教本でチェックしていく必要のある部分です。

最も好ましいのは、中身を熟知し、実践の仕方を明確に身に着けているプロフェッショナルに、教本やエチュードを定期的にレッスンしてもらうことですが、毎日毎回そうはいかないですから、自分で練習するときには上記のようなことを意識してもらうのが大切だと思います。

 

3.教本を開きエチュードは色々やったけど、どうやって活かすのか?

たくさん教本をさらってみたけど、教本をやるのが目的になってしまい、手段としてどういう風に普段の曲に取り入れるのかがわからない!この声はいろんなところから聞こえてきます。

教本の練習と曲への取り入れ方で最もわかりやすいのは、特定の運指や音の動きの類似性に気づくことです。練習が必要な動きなのでエチュードとして書かれています。似たものがあればそのまま使ってみればよいのです。スタッカートやアクセントの処理、ブレスの取り方や音程の癖も教本を練習している中からスライドできるわかりやすい部分なので、どんどんやってみたほうが良いでしょう。

「あの番号でやった動きだ……」どこかで聞いたようなセリフですが、実際にこう思うことは多いです。「アーバンの最初の単元は何度やっても課題しかない」「コプラッシュの18番が好きすぎる」「ロッシュの8番で何かを感じる」など、エチュードの中身に対するイメージも入ってくるので、さらっていると自分の中で勝手にいろいろな部分がリンクして、意識せずとも曲の中に取り入れられていることが増えてくるはずです。

 

4.教本、最高。

今回、このテーマを書くにあたって「教本とエチュードをやってきた自分と教える自分」を思い返しました。思い返した結論は、丁寧に取り組んできた過去の自分、本当にありがとう。

対症療法では根治ができないのと同じで、その場しのぎで対応できていたと思い込んでいた子供のころ。教本をやり悩みながら譜面を追った学生時代。そして、ひたすら取り組み続け、自分の生徒さんやお弟子さんに、細かく説明するのを繰り返す現在。たしかな効果や必要だと思う人がいなければ、ぱっと見では簡単に見えてシンプルで短い曲から、真っ黒すぎる曲まで振り幅も大きい「教本」という存在に、こんなにも多くの人が取り組もうとは思わないでしょう。私も教本のおかげでたくさんのことを習得することができました。

教本は音楽をする上での辞書であり、繰り返し取り組むドリルでもあり、お守りです。音楽に必要なことがたくさん入っている宝箱である教本を開いて、ぜひエチュードをやりましょう!

 


今村耀 プロフィール:

埼玉県入間市出身。埼玉県立芸術総合高校音楽科卒業。成績優秀者卒業演奏会に出演。日本大学芸術学部を経て、尚美ミュージックカレッジ専門学校コンセルヴァトアールディプロマ科を修了。大阪国際音楽コンクール部門最高位他多数受賞。東邦音楽大学より優秀指導者賞を授与。ヤマハ人工知能合奏システムと国際イベント「デジタルコンテンツエキスポ」で共演。吹奏楽雑誌「Wind-i mini vol.39」巻頭インタビュー掲載。ロケットミュージック「music people」コラム掲載。WBPにてエッセイ「音楽とお茶の愉しみ」を連載。日本ユーフォニアム・テューバ協会会報にリサイタルでのダブルベルユーフォニアムの演奏が掲載。埼玉県のローカル局ICTVとFMチャッピーでインタビュー番組が1ヶ月放送。
作編曲家として、ASKS Windsより室内楽、ロケットミュージックより「今村耀ユーフォニアムSOLOシリーズ」楽譜が発売中。
2021年夏、侘美秀俊による劇伴3重奏による、初アルバム「Eupianodica」リリース。≪iTunes Store》2021年8月インストゥルメンタル アルバムランキング2位を獲得。
スタジオワークもこなしており、「テレビ東京系列TVドラマ/捨ててよ、安達さん」「パワフルプロ野球」「響け!ユーフォニアムxヤマハ≪北宇治高校吹奏楽部へようこそ!≫」「リヴリーアイランド」」「LIFE」等、ドラマやゲームの劇伴音楽やCD、店内音楽等に多数参加。プロデュースも行っている。
各種コンクールの審査員をつとめる他、指導者として学生ソロコンテスト全国大会入賞を多数輩出し、吹奏楽コンクール強豪校や講習会での指導に携わり、全国大会出場や東日本大会金賞を実現している。
ウインドオーケストラプリムラ共同代表、小江戸ウインドアンサンブル、ホルン&ユーフォニアムデュオ「Turquoise」、Ensemble PETS各メンバー

今村耀総合サイト:
https://lit.link/euph


Wind Band Pressから生まれたストア「WBP Plus!」でもいくつかの教本、エチュードを取り扱っています。

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